伊藤義教『ペルシア文化渡来考』と清原なつの『光の回廊』
『ペルシア文化渡来考 (ちくま学芸文庫)』
伊藤 義教〈ちくま学芸文庫〉2001/04
『光の回廊 〔小学館文庫〕』
清原なつの〈小学館文庫〉2009/05
光明皇后の生涯を描いた歴史マンガ『光の回廊』の作品中に、参考文献としてタイトルが挙げられていた『ペルシア文化渡来考』が気になっていました。
1980年に岩波書店から単行本が刊行され、2001年にちくま学芸文庫(筑摩書房)から文庫化されました。2009年現在、単行本も文庫本も絶版です。
地元の図書館にちくま学芸文庫版が所蔵されていたので借りてきました。
著者の伊藤義教(いとう・ぎきょう/1909-1996)は、京大出身のイラン学者(古代ペルシアの研究者)、文学博士で、実家である浄土真宗の寺をついだ住職でもあります。
『ペルシア文化渡来考』では日本に伝わる文献や行事などから、古代日本にイラン(古代ペルシア・ゾロアスター教徒)の文化・技術を持つ人が渡来した証拠を見つけ出します。
東大寺の修二会(しゅにえ)、お水取りの創始者である僧侶・実忠(じっちゅう)が「異邦人」を意味する中世ペルシア語ジュド・チフルを音訳して名づけたイラン系の人物とし、修二会がゾロアスター教の影響を受けた行事としています。ただし、『光の回廊』に出てくる「観音=アナーヒター女神」説を伊藤氏は否定しています。
『日本書紀』に、斉明天皇のときにイラン系の人たちが土木工事にかかわっていたことを、記載された人名が古代ペルシア語に対応することで証明しています。また地下にトンネルを掘って水を通す水路「狂心渠」が中世ペルシア語の「カハレーズ」、のちのイラン・アフガニスタンの「カナート」から来たとしています。
『日本書紀』の孝謙天皇・斉明天皇のときに日本に漂着した異国人の一行の中に、サーサーン朝ペルシアの王族の男とその娘がいたことを名前から推察します。さらに数年後の記述で娘が「王の娘」から「王の后」に変わり娘が生まれていることをことを指摘し、ゾロアスター教では大善大功徳の行為だった最近親婚があったと推測します。
これまで誰も論じてこなかった日本の文献に残るペルシア語の痕跡を丁寧に証明するので、専門外の人には冗長な部分が多いです。
この難しい記述から興味深いエピソードをすくい出し、ペルシアと日本の王族の壮大な恋物語を構築した清原さんの想像力はすごいと尊敬します。
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