« 『パリ左岸のピアノ工房』T.E. カーハート〈新潮クレスト・ブックス〉 | トップページ | QXエディタ2009年1月にバージョンアップ »

2009年10月 5日 (月)

人妖の中国文化史『楊貴妃になりたかった男たち』武田雅哉

楊貴妃になりたかった男たち』 〈衣服の妖怪〉の文化誌
武田雅哉〈講談社選書メチエ379〉(2007/1/10)
四六判ソフトカバー286P

「人妖(レンヤオ)」とは中国語で、女装・男装など異性の服を着る人、または異性の振りをする性的倒錯者のこと。オカマ、ニューハーフ。もとは「化け物人間」の意。
古代からある言葉で、現代でもネットゲームで男性ゲーマーが女性キャラクターを演じる「ネットオカマ(ネカマ)」に対して「人妖(ren yao)」のローマ字表記の頭文字をとって「RY」と呼ぶそうです。

この本は、古代の歴史書、事件記録、伝説、小説、画報(絵入新聞)、芝居、現代の写真入新聞記事や映画から、女装・男装などの服装倒錯(服妖)、性転換(性同一性障害、半陰陽を含む)、同性愛者など、「人妖」たちのの文献記録を集めて解説をつけた中国文化史です。非常に面白い読み物です。図版多数。

中国では清帝国時代まで、女性は子どものときから足に纏足(てんそく/足を縛って小さくする習慣)や耳にイヤリングを付ける穴を開ける風習があり、外見から男女の違いがはっきりしていました。女装する男のための偽の纏足なる小道具まであったというから面白いです。女装を見抜かれて、女の服を着ながら大きい足を見られる恥ずかしさは相当なものでしょう。

昔の人が異性装する理由は家族の身代わりだったり、身の安全のためだったり、学問や仕事のためだったり、男の子が育たないからという民間信仰だったり、必要に迫られた目的がありました。詐欺や性犯罪など悪いことをするときの変装や、有力者が愛人を変装させて遊ぶのはは別としますが。
近代の明清になると金持ちのおふざけだったり、民国になると男性作家が女装して写真を撮ったり、映画や芝居で女装や男装したり、遊びやパフォーマンスが多くなりました。

本人の意思によらない肉体的性転換(性同一性障害、半陰陽、外生殖器の形状の異常)は今の医学知識からすれば同情する部分もあります。

ほとんどの時代で、男の女装、女の男装、性転換などの事件は世が乱れる兆し「人妖」として悪く書かれます。

しかし民衆は、性差を飛び越える英雄や犯罪者を興味を持って知りたがるものです。

男装して従軍した女性「木蘭従軍」や、男装して学校に通う女性「梁山泊と祝英台」など有名な男装女性の伝説はお芝居などで今でも人気があります。

中国の「京劇」では男性が女性役(女形)を演じます。京劇の『臙粉計(えんぷんけい)』は司馬仲達が諸葛孔明に女物の服を贈られて挑発されるという「三国志」で有名なエピソードを芝居にした作品。仲達は孔明の近況を探り病に伏していることに気づき、贈られた女物の衣裳を着て化粧をして孔明の前で歌い踊るという大爆笑の展開になります。正史および「三国志演義(第103回)」ではもちろん女装はしません。

現代の人気作家、金庸の武侠小説『笑傲江湖』に出てくる「東方不敗」は武芸の達人で邪派・日月神教教主。秘術を会得して最強となるために自ら去勢して女装しオカマ言葉を使う男とも女ともつかぬ怪人となりました。原作では老人らしいですが、映画やドラマでは若い美人女優が男装して演じて人気を博しています。

こういう本を読んでいるわれわれ日本人もまた、「人妖」に惹かれるのです。

|

« 『パリ左岸のピアノ工房』T.E. カーハート〈新潮クレスト・ブックス〉 | トップページ | QXエディタ2009年1月にバージョンアップ »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/41399/46398120

この記事へのトラックバック一覧です: 人妖の中国文化史『楊貴妃になりたかった男たち』武田雅哉:

« 『パリ左岸のピアノ工房』T.E. カーハート〈新潮クレスト・ブックス〉 | トップページ | QXエディタ2009年1月にバージョンアップ »